「安宅コレクション」に呪縛されて・・・その2

三時間弱、すべての展示を見て歩いた。楽しかった。良いものを見たという思いとは別に、物と格闘したという疲労感が残った。自分の生きた時間など比べものにならない時間をこの陶磁器たちは経て来ていた。そして多くの人々の手を経ても来ていた。様々な想いが入っていることも想像できる。それが彼等の存在感を重くしていた。その存在感をまともに受けてしまったのだろう。物に中(あた)ったとも言えるだろうか・・・骨董・古美術とは怖い物である。
良いも悪いも分からないが、この肉眼で生(なま)に見てみよう。と唯それだけであった。
なんだか物に導かれたような数週間であったが、これで呪縛は解けるだろうか。

余談になるが、最後にもう一度国宝の二点を拝んでおこうと最初の展示室に戻った。そこで気が付いたのだが、国宝が入ったケースは両隣に並んだケースとあきらかに照明の色が違うのだ。職業柄、光と色には敏感なのだ。国宝のケースはアンバー系、すなわち黄色い光に照らされていた。光源もスポット的になっていて影が大きく出ている。
”これでは国宝の飛青磁の色が分からないなぁ”と残念無念に思う。
たしかこの美術館は光源に特別配慮していると記憶していたのを思い出した。ちなみに美術館のHPには次の様に書いてある(・・・今年度から新たに自然光に近いLED照明を全館に導入しましたので、自然採光室以外の展示室でも陶磁器の釉色を更に美しくご覧いただけるようになりました。・・・)
気になったので近くにいた学芸員の方に尋ねると「今回は一緒に入れてある国宝・油滴天目茶碗とセットで見せる為の演出です」と教えてくれました。通常国宝・飛青磁花生は別の自然光の入るケースで展示されていると付け足して教えてもくれた。
その返答を聴いた私の顔に何かを感じたのか、その方は事務所で確認してみますと言って私を階下に案内してくれました。
私の質問は他の学芸員から担当者へと回され、どういうわけか質問は半ばクレーム的な処理になってしまった様で・・・
最後に戴いた回答は「あのケースは”茶器、茶道具”として見せる為の演出です。色を確認したければ今回作成した図録がありますが・・・」でした。
美術館に来て作品の真実をカタログ写真で確認するとは本末転倒だと思うが・・・。
国宝・油滴天目茶碗の公開となれば古美術愛好家にもましてお茶をたしなむ人達も観ておきたい名品であることは分かるし、開館30周年記念企画展ということで平素とは違う見せ方のようでした。
出来れば平素の飛青磁花生を観たかった。