月見うどん

腹がへり、冷蔵庫に生卵とうどんがあったので、月見うどんでも食べようと思い鍋に火をかけた。
うどんが出来あがり最後に卵を落とす段になり(ふと)思った。
白身は入れるべきか、捨てるべきか」と。

高校生のころ、通学に使っていた駅のホームに立食いソバがあり、よく利用した。かけそば・かけうどんが一杯百七十円で月見にすると二十円増の百九十円だったと思う。
単純にかけに生卵を落としただけの、月見うどんをよく注文した。腹ぺこ高校生はそばよりも腹持ちがいいうどんに手を出したのだと思う。
このとき食べつづけた月見うどんが微妙だった。黄身を始めに潰すのが嫌で、途中まで黄身を避けながらうどんをすすった。途中で黄身を潰すのだが、そのころは黄身と白身と汁はうまくまざらなくなる。黄身は濃い汁を明るくしたが、白身は透明のまま一部に固まるように残った。最後に汁を飲干す時にドロリと口の中に入り、喉を通過していくのだ。この最後のドロリがどうにも嫌だった。
はじめに黄身を潰し白身と混ぜる手もあったが、どうしてもはじめは濃い汁でうどんを絡めたかったのだ。
それから自分で月見を作る時は、必ず最後に考えてしまう。「今日も白身を捨てるべきか」と。
もったいないと叱られそうだが、今日も白身は捨ててしまった。
卵を割り、割った殻を使って黄身と白身を手早く分離する。黄身だけが殻に残り、白身はばらばらになることなく大きな一塊を維持しつつドロリとシンクを滑って半月の暗闇へと消えて行った。
なんだかひと回り小さくなったような黄身だけがうどんの上にのった。