キミは時々変な事を言うね!

「ホホホォ、キミもこれでいいね。これ二つね」と先生は少し甲高い声で注文をする。
青デニでの食事は決まってこうだ。
「キミは時々変な事を言うね!」二人の話はいつもここからはじまる。また変な事を口走ってしまったかと、あわてて記憶を探すのもいつもの私だ。
「先日カトマンズでこんな物を手に入れました。どうでしょう?」と私は先生に仏画を見せた。
「いけないね。すぐに捨てなさい」
「・・・そうですか」
「顔がよろしくない」
「確かに少し漫画です」
「だろう!」
「少し古いらしいです」
「そういう技法があるんだよ!」
「捨てないとダメですか」
「ダメだね。そういう物を手元に置いておくと審美眼によろしくない。」「キミはカメラマンだから目を大切にしなさい」
そして先生は奈良の話しをする。「法隆寺の焼けた仏画は凄いよ!」からはじまり「入江さんとこの娘さんは美人なんだ、JRでモデルになっていただいた」と話しはつづく。

早朝のデニーズで男二人が、お寺とか仏像がとかと楽しそうに話しているのは、かなり変だったろう。

青デニから青山墓地を経由して骨董通りを、先生とはよく散歩をした。馴染みの骨董品屋に入り店主とお茶を飲みながら「あれは〜あれ?そう!ふーん。じゃあとでね。しといて」などと言って店を出る。いつもの買い方らしい。キミのカトマンズとは違うだろうと背中が言う。
先生はいつも新しい世界を見せてくれた。

「キミは時々変な事を言うね!」からはじまる会話がもう出来ないのかと想うとさびしい。
昨年末に永眠された鈴木八朗先生のご冥福を、心からお祈り申し上げます。